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S2workerS' web

車輪の音、さよなら

「精神病院行くと、薬かけられたご飯を無理やり食わされるらしい」
と、オレは駅の階段を上りながら友人三人と話していた。たいした意味はなく、その時読んでいた本に書いてあった事を言っただけだ。
友人三人はたいした興味はなかったようで、ふーん、と言って話は終わった。
階段を上りきってホームに出る。時間的に、既に出発したはずの電車がなぜか止まっている。駅員が騒がしく動き回っている。
「何か線路に落ちてたのかな」
と友人の一人が言った。
「段ボール箱かな」
「猫じゃね?」
「石じゃないか? よく烏が線路に置いていくらしいし」
「俺、見に行く」
「じゃあ俺も」
と、よく覚えていないが、二人か、オレ以外の全員かが、先頭の方を見に行った。
「何かあったか?」
とオレは聞いた。
「分からない」
と、小学校の時からの友人が言った。
「目撃者の方いらっしゃいませんか!」
と駅員が叫ぶ。
「自殺か?」
と誰かが言った。
「まさかあ」
「分からんぞ」
「ぐもっちゅいーん?」
「ないだろ」
「でもな」
「目撃者の方いらっしゃいませんか?」
とまた駅員が叫んでいる。
「自殺か」
「まさか」
「分からんな」
「当駅で、事故が発生いたしました。目撃者の方いらっしゃいませんか?」
「自殺だ」
「自殺だ」
やや緊張した空気が流れた。
「どこでだ」
「先頭には何もなかったんだろ?」
うなずく。
「電車止まるのか?」
「やばいな、俺ら帰れない」
オレ達四人の内、二人は都市方面、オレと小学校の時からの友人は地方方面だ。都市方面に行く車線で自殺があったので、二人は帰れない。
「よし、オレらの方は動く」
とオレは言った。
オレは母にメールを送った。
「何か事故っぽい。僕の帰りは遅くならないと思う」
と一件送ってから、
「自殺らしい」
と、二月の終わりの冷たい空気にかじかんだ指でもう一件付け足して送る。
「電車動いてるの?」
と返信があった。
「分からない」
と返す。
「まださっきだね 駅員さんてんやわんやしてる? いつ動くんだろう?」
「当駅で人身事故が発生しました、目撃者の方」
と駅員が叫んでいる。
「分からない。電車遅れてる。人身事故。人身事故だって。」
と送る。
「こりゃ動かないな」
と都市方面が言う。
「歩いてくか」
「まじかよ」
「前に歩いた事あるし」
「じゃあ行くか」
「それじゃ、俺ら帰るわ」
「おう」
都市組の二人は歩いて別の駅に向かった。
「──君も一緒なの? ──行の子達も待ってるの?」
とメールがある。
「──は居る。──行きの──達は歩いて──駅に行くって」
オレ達が乗るべき車線の電車も止まってしまった。
警察が来た。KEEP OUTと書かれた帯を引いていく。
「オレはじめて見たこのテープ」
「ああ」
立ち入り禁止テープにはしゃぐオレ達。
担架を持った人達が立ち入り禁止テープをくぐって行く。
オレ達は無言になる。
「電車動かします、石原さん大丈夫ですか」
とトランシーバーで駅員が話している。
「大変ご迷惑をおかけしております。──駅よりJRによる振替輸送が行われております。これより当駅に停車しております電車を一度動かします。──まで行かれる方は御利用ください」
と言うアナウンス。轢いて止まった電車が動くらしい。これが行ってしまったら次はいつになるかわからないが、
「乗るか?」
「人を轢いた電車だからなあ」
「だよなあ。人を轢いた電車には乗りたくないな」
「ああ」
そして、電車が止まったために混雑しているホームで、友人がつぶやく。
「何があっても死んじゃ駄目だよな」
「え?」
「駅に着いたとき話してただろ? 精神病院入れられて薬の、って奴。それでも、死ぬよりは。やっぱり生きてなきゃ駄目だよなあ」
「……ああ」
オレはうなずいた。
「いま電車は──方面も──方面も止まってる。でももうすぐ動くらしい」
とメールを送る。
いらいらした駅員の声が聞こえる。
「何で──方面まで止めたんだ? 本部は。止める必要は全くないだろう。ちょっと本部に言っといてよ」
「振替輸送でしょ 電話ちょうだい」
と返信がある。
「いや、二番線で自殺したようなので、一番線は動くようだ」
と返信する。

「ちょっと、いつ動くんだよ」
とおじさんが駅員に言っている。怒っている訳ではなく、苛ついているのだろう。オレは何かむかついた。人が死んだのに。でも、いまなら分かる。自殺で電車送れたとき、大事な用事があったら苛つくに決まっている。最近、東京にミュージカルを見に行ったのだが、もし人身事故で遅れてしまったらオレは自殺者を恨む。
死体をのせ、ビニールで包まれた担架がオレ達の目の前を通る。オレはなんとなく親指の爪の間を隠した。小学校のころ、そこから悪い霊が入ってくるのだと本で読んだ。

結局、その三十分後に運行は再開され、オレ達はそれに乗って帰った。

次の日、母が言った。
「ピアノの先生の御主人が、電車の自殺を扱うところに勤めてらっしゃったそうなの。絶対やるなって。電車止めちゃうから家族がお金払わなきゃいけないのもあるんだけど、死体がぐちゃぐちゃになっちゃうんだって。見てられないって言ってた。お葬式の時にそんなじゃ悲しすぎるよね」



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