初めに、科学者達は地球を発見した。
地球は海に覆われていて、闇が深淵の面にあり、数人の科学者が水の面を調べていた。
科学者達は考えた。
「生物が生きるために、光が必要だ」
科学者達は地球の位置と軌道を整えた。
こうして、地球に光が差した。
科学者達は光を調べて、生物にとって適する事を確認した。
科学者達は地球の自転を整え、昼と夜を決めた。
第一の段階である。
科学者達は考えた。
「太陽光線中のある種の光は、生物にとって有害だ」
科学者達は酸素を作り、オゾン層を発生させた。
第二の段階である。
科学者達は考えた。
「海ばかりでは、陸上で生活する生物に適さない」
科学者達は一つの大陸を作り、それを地と呼び、水の集まりを海と呼んだ。
「生物の初めに、植物がなければならない」
科学者達は遺伝子を合成し植物を創った。
第三の段階である。
科学者達は考えた。
「地球には衛星が必要である」
科学者達は月を造り、月の軌道、自転周期などを決めた。
第四の段階である。
科学者達は考えた。
「機能的な生物だけでは面白くない。もっと不思議で驚くような物を作ろう」
科学者達はさまざまな動物を創造した。
科学者達は飾りのついた鳥や虫を造り、どんな深海にも魚を住ませ、文字をデザインした蝶を創って面白がった。
科学者達は考えた。
「我々にかたどり人を創ろう」
科学者達は比較的彼らに近い生物であるサルを選んだ。
科学者の一人から遺伝子と 精子が採取され、試験管の中でサルの卵子と受精させた。その受精卵は試験管から遺伝子操作のための容器へ移され、一定期間発育させられた。
その後、母体となる科学者の子宮へと移され、着床した。女性科学者が出産予定日を調べ、月を数えた。出産予定日が近づいていく。しかし、出産予定日は過ぎてしまった。
科学者は彼女の頭を布で覆い、器具を用いて子宮を開き胎児を取り出した。科学者達は喜びに震えた。
「我々は創造を成し遂げた」
科学者集団のうちの一つ、蛇をシンボルとするグループは、これを良しとしなかった。
「人には科学が必要である」
蛇の一人が人に人としての理性を与え、科学技術の書を読めるようにし、それを読ませた。
人々は自らが裸であることを恥じた。
科学者達がやってくる。
「人よ、姿を見せてくれ」
人は現れなかった。
「人よ、なぜお前達はお前達の父の前から姿を隠すのか」
人は答えた。
「我々は裸である事に気づいたのです」
科学者は激怒した。
「誰がお前達にお前達が裸である事を教えたのか」
科学者達は人々を研究施設から追放し、蛇の科学者達を地球に残し、地球から立ち去った。
蛇の科学者達は人々に科学を教え、人の子を妻とした。
人々は科学を発達させた。
人々は食べるための植物を遺伝子組み換えによって生み出し、科学者達の造ったピラミッドやジッグラトを模して塔を作り、その頂上に飛行機を作り、空を飛ぼうとした。
地球を去った科学者達はこれを良しとしなかった。
「人が二度とこのような事をしないようにしよう」
科学者達は人々から科学を取り上げようとした。
人々は科学者達と戦った。
数多の飛行艇が飛び交い、科学の粋を集めた武器が使われた。
人々は二つの都市に科学を集め、その都市を要塞とした。
あらゆる武器を用いても、これらの都市には効果がなかった。そこで高速の強力な飛行艇で飛んでいた一人の科学者は、どんな科学者さえも恐れを抱き、大きな痛みを感じる兵器を投下した。太陽が一万個集まったほどの明るい煙と火が絡み合った光り輝く柱がそそり立った。
戦士達は猛火に焼かれた木々のように倒れた。恐ろしい風が吹き、雲はうなり、太陽は揺れ動いた。方向感覚を失うほどの濃い闇が都市を襲った。
その都市の住民は一人残らず灰と化すまで焼き尽くされた。死骸は誰の物とも見分けがつかなかった。髪の毛や爪は抜け落ちていた。鳥達は白くなり、すべての食物は毒された。
蛇の科学者は人が滅ぶ事を良しとしなかった。
蛇の科学者は人、アトラハシスに言った。
「世界中の生き物の遺伝子をできうる限り集めなさい」
アトラハシスはその通りにした。
「じきに洪水が来る。わたしを手伝いロケットを作れ。それに乗り水が引くまで地球を離れるのだ」
その後兵器の高熱によって氷が融け水位を増した海を、月の引力が引き寄せた。人の住む大陸はすべて海に沈んだ。
アトラハシスと彼の家族、そして蛇の科学者達は三段式のロケットに生物の遺伝子を乗せ、自らも乗り込み地球を離れた。
地上の生物は全て死に絶えた。
やがて月の位置が変わり水は引き、アトラハシスと蛇の科学者は地球に降りた。
科学者達がやってきた。
「我々はこのように生物を滅ぼすことは二度としない。我々も創られたものであると分かったからだ。地球の支配は人に譲ろう。全ての生物が地に満ちることを見守ろう」
科学者達はアトラハシスと契約を結んだ。
地球は人の物となり、科学者達はそれを彼らの住む場所から見守った。
科学者達は時代ごとに人に使いを送ったが、科学を失った人々は科学を理解できなかった。
科学者達は待った。
「いつかは人も自ら科学を得るだろう」
科学者達の使いは人に道を示したが、強要はしなかった。
科学者達は考えた。
「我々も自ら科学を発達させたのだ。我々をかたどった人にできぬはずがない。」
アトラハシスは科学者と共に在って、考えた。
「科学者達は人を自らの手で滅ぼすことはしない。だが、人が自らの手に入れた科学で身を滅ぼさぬとも分からない。誰もが人の分をわきまえるとは限らない」
科学者達はアトラハシスに答えた。
「人が自ら科学の使い道を誤れば、科学は人にとって過ぎたるものである。もしそうであるなら、我々は人自らに自らを滅ぼす道を歩ませるだろう」