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愛の留まる場所


 俺が姉の部屋で見つけたのは、一つの指輪だった。姉が死んで、俺は姉とアパートで二人暮しだったから、引っ越さねばならなくなった。全ての荷物が片付けられた、フローリングむき出しの部屋。涙は、とっくに枯れていた。姉は、悪魔に殺されたのだった。

 悪魔──誰もそれが何なのか知らない。人を食らう怪物、らしい。存在がしれたのは、何年か前、ギリシアに観光に訪れたアメリカ人夫婦が不審な死を遂げた事件による。妻のビデオカメラに、奇妙な生物が映っていたのだ。ほとんど人の形をした体を持つが、人と全く違うシルエット。背から生えた巨大な羽根が、人としてのフォルムを崩している。カメラに捕らえられた悪魔は、夫の腹を裂いて食い、しばらく血をすするように傷口に顔を当てていたが、やがてどこかに飛び去った。ちなみに、妻の方は先に食われていた。落としたビデオカメラの視界の中で、偶然夫が食われたのだ。世界中で瞬く間に有名になったそれは、当初ギリーク・デビルと呼ばれた。しかし、その後、同じような事件が世界中で起こった。と言うより、今まで犯人不明の通り魔犯行だと思われていたものが、悪魔の仕業だと分かった、と言うのが正しい。アメリカ合衆国・フェニックス、ドイツ・ウィルヘルムスハーフェン、エジプト・ギザ、インド・カルカッタ、中国・南京、トンガ・ヌクアロファ、そして、日本・広島(現場でインタビューされた警察官が、悪魔のせいに違いない、というコメントをし、その後公式の記者会見では否定された。政府も悪魔の存在は認めていない)。完全に悪魔の仕業である、と断言されたのはそれらの都市だけだったが、うわさでは世界70ヵ国以上で確認されているらしい。

 姉が指輪をしているのは見たことがなかったが、俺はその指輪をはめてみた。ちょっときついかな、と思いながらとりあえず人差し指にはめたが、サイズはちょうど良かった。少しの間、俺の人差し指で鈍く光る銀色の指輪を眺めた。宝石も何も付いていない。俺はふうっとため息をつき、梱包に使うガムテープを買いに行くため、コンビニに行こうと思った。さっき切らしてしまったのだ。

 夜道を歩いていく。少し冷たい風が心地よかった。大通りでもないから、数人としかすれ違わない。そして、コンビニに着く。ガムテープを持って、ついでにコーヒーも買って、レジへ行く。マニュアルどおりの対応。しかし、コーヒーを差し出した時、カウンターになんとなく置いた俺の左手の指輪を見て、表情が変わった。驚きと絶望、そして憎しみが混じった不思議な表情。俺は吃驚して、一歩下がった。アルバイトらしい若い男が、指輪から目を離し、俺の顔をまっすぐ見た。そして。
 男の顔に歌舞伎の隈取のような模様がどす黒く浮かび、目が真っ白ににごる。コンビニの制服が溶け落ち、背から羽根が生える。真っ黒な、コウモリのような皮膜。俺は腰が抜けて、へたり込んだ。なぜだろう、逃げようとも思えない。悪魔と化したアルバイターが、カウンターを飛び越え俺に襲い掛かる。長く伸びた爪が、俺の腹を裂く。まだ痛みを感じない。異物感があるだけだ。流れ出す血。飛び出してきた固まりは腸だろうか。少しパニックになった俺は、腸を押し戻そうと、腹に手をやった。両手で、腸を押し戻していく。そんな間にも、悪魔は爪を突き立てていた。突然、俺の左手が光りだした。赤く、紅く。悪魔が悲鳴を上げて飛びのいた。何だ、これは。指輪が光っているのだと気づくのに、たっぷり二分はかかった。光に包まれた傷口が閉じていく。思考がほぼ止まっている俺は、とにかく立ち上がった。服は破れたままだが、血は消えていた。指輪の光が弱くなる。悪魔が再び襲い掛かってくる。俺は、近くの棚にあったお茶の缶を掴み、投げようとしたが、掴んだ瞬間、缶が二メートルほどの鋭い先端を持つ棒に変わる。悪魔が腕を振りかぶりながら、こっちに飛んで来た。俺は鈍く銀色に光る槍のような棒を持ったまま立ち尽くした。悪魔が迫る。その時思った。死にたく、ない。俺は棒を構え、悪魔に向けて突き刺した。とがった先端が悪魔の腹を突いた。悪魔が訳の分からないことを叫びながら腕をムチャクチャに振り回し、羽ばたく。俺がさらに力を込めて押し込むと、ぐったりとして、腕と羽根、そして首が垂れる。羽根がちぎれる。顔の隈取が消える。体の色も、真っ黒から普通の肌色に変わる。悪魔は、元のアルバイターに戻っていた。ただし、腹から大量の血が流れている。男は、死んでいた。俺が棒を放すと、元の缶に戻る。俺は死体を眺めながら、呆然としていた。
 何してんの、あんた。と言う声で我に返る。後ろを向くと、女の人が立っていた。俺より五歳ほど年上であろう、二十代前半くらいのきれいな女性。これ、あんたがやったの、と聞かれたので、うなずく。どうやって、と聞かれ、分からない、指輪が光ったんだ、と答えた。彼女は不思議そうな顔をしていたが、俺の手を掴み、俺の目を見て、言った。とにかくわたしの所に来て。

 案内されたのは、普通の一軒家だった。そう大きいわけでもないが、小さくもなく、車二台分くらいの庭もあった。俺は彼女に背中を押され、無理やり玄関に押し込まれた。中も、普通。彼女はただいま、と言った。お帰り、と男の声がして、彼女がリビングらしき場所に入って行き、俺も従う。椅子を勧められ、テーブルに着く。何か飲む、と聞かれた。ペプシと麦茶と飲むヨーグルトしかないけど。 麦茶を頼むと、彼女はグラスを二つ持って戻ってきた。麦茶が入っている方を俺に渡す。ありがとうございます、と言いながら、俺はお邪魔します、と言わずにこの家にあがってしまったことを思い出した。あなたの家なんですか、と聞いてみる。違う、うん、なんていうか、彼氏の家。で、あんたどうしてあれを倒せたの。俺は説明した。悪魔に殺された姉の指輪をはめてコンビニに行ったら店員が悪魔になったこと、指輪が光って缶を掴んだら槍になって、悪魔を殺せたこと、を詳しく説明した。話を聞いた彼女は、わたしもね、悪魔を倒せるの、と言った。なんとなく現れる場所が分かるし、あなたと違ってわたしは銃を持ってるから。悪魔って何なんですか、と聞くと、分からないけれど、いつもは人間の姿をしてるわ。人間の体を乗っ取ってその人のふりをして生きてるみたい。本当の姿は見たことない。で、今日はもう遅いし、何なら泊まっていく、と勧められたが、断った。彼女は、まだ話すべきことがあるから明日も来てね、いつでも良いから。と言った。彼女の家を出る。ちゃんとさようなら、を言ってから。

 次の日、学校に行く気もなかったので、休む旨を電話で担任に伝え、荷物がほとんど梱包された家でだらだらと過ごした。姉の部屋に行って、なんとなくつぶやく。姉さん、何なの、この指輪。指輪をはずそうとしたが、全く外れようとしなかった。三時ごろ、俺はあの女性の家に行った。ここから歩くと、三十分で着く距離。自転車で行っても良かったが、歩きたかったので、歩く。空は晴れていた。薄く白い雲が僅かに浮かび、太陽はやや傾きつつも天上に輝く。

 チャイムを鳴らすと、安っぽい電子音にされたクラシックの一節が流れる。どうぞ、とあの女の人の声が聞こえ、ドアが開いた。リビングに案内される。昨日のようにリビングに通され、麦茶を貰う。今日は彼女のとなりに、おそらく彼女の彼氏であろう男が座っていた。格好良い、ではなく、きれいな男性だった。世間話も何も無しに本題に入る。と言うより、彼女は単刀直入すぎるほどにこう言った。あなた、わたしと一緒に戦いましょうよ。それは悪魔とですか、と聞くと、当たり前じゃないの、わたし達にあいつら以外の敵はいないでしょ、と言われた。昨日のことを思い出して、俺は思考が止まる。俺が殺したのは悪魔だが、俺と出会う前はただのアルバイターだったし、死んだ後も人間に戻った。少なくとも、死体は人間だったのだ。俺は、例えそれが悪魔なんだとしても、腹を穿たれた死体を見たくはなかった。すみませんが、戦う気はありません、とこっちも率直に言う。そう。と彼女は案外簡単に引き下がったかのように見えたが、口を開いた。お姉さんの仇をとろうとか、そう言うの、ないの。と聞かれる。ありません、別に。 お姉さんのこと好きでしょ、とまた聞かれた。俺は確かに好きだが、今はまだ気持ちの整理が付かないから、と言った。ごめんなさいね、こんなこと聞いて。と彼女が言って、俺は帰ろうと思って立ち上がる。しかし、その時彼女の彼氏が声をかけた。戦わない、と言っても、君の指輪は許してくれるかな。俺は彼の方を向いた。年は彼女と同じくらい、やせていて、髪はやや長く、顔も角ばっておらず女のような輪郭、目は大きくてまつげも長い。色白で中性的な人だった。言葉の意味はよく分からなかったので、曖昧なボディーランゲージを返し、俺は彼女の家から出た。

 帰り道、ゲートボール帰りらしきおじいさんとすれ違ったが、すれ違う瞬間、昨日のアルバイターと同じような表情をしたのに気づき、俺は立ち止まって振り返った。おじいさんも立ち止まり、俺の指輪を見つめた。嫌な予感がした。おじいさんの顔に隈取が浮かび、体が黒く染まって、服が溶け、禍々しい羽根が生える。俺は逃げた。通りを走り続けた。向こうは飛べるから、すぐに追いつかれるだろうが。俺は走りながら何人もの人とすれ違ったが、そのうちの何人かが、あの表情をしたのが見えた。俺を追う悪魔は四人になっていた。そのうちの一人が、加速し、俺の背中に爪を立てようとした。俺は転んでしまい、転んだことで爪は避けられたが、追いつかれてしまった。悪魔って、こう頻繁に出現するものなのか、と思いながら、死の恐怖を覚えた。でも、戦う気は起きない。死体は見たくない。悪魔の一人が舞い降りる。その時、派手な銃声が響き、悪魔の体がのけぞった。大量に血を噴出しながら、人間に戻りながら、俺の所に落ちてくる。俺に、死体がのしかかってきた。その重さに押しつぶされそうになり、さらに鉄のような匂いも漂ってくる。吹き出した血が俺の目に入り、視界が赤いような黄色いような色に染まる。俺は、叫んでいた。銃声がもう一発。しかし、目標に当てられないようで、さらに何度も何度も響く。悪魔が、俺めがけて飛んできた。俺は叫ぶのをやめた、いや、やめさせられた。右胸に、爪が深々と食い込んでいる。血が噴き出し、悪魔の手を濡らし、俺の腹と手をも濡らした。その血が指輪に及んだとき、指輪が光り始めた。赤く紅い色の光が、俺を包む。俺は右手で悪魔の手を掴むと、悪魔の腹を蹴り飛ばした。肩がちぎれて、悪魔が吹き飛ぶ。俺は胸に突き刺さっている腕を引き抜く。すると、傷口はたちまちふさがった。そして、右手に持った腕が銀色に鈍く光る金属の槍へと変わる。俺の意識はぶっ飛んでしまった。もう何も感じない。こいつらが人間が変身したものだとか、殺したら人間の死体を見る事になる、とか、もうどうでも良かった。姉さんの仇をとろうとかも、頭の中には一欠片も浮かんでいない。俺は思いっきりジャンプし、垂直に二十メートルほど上昇した。ビルの壁を蹴って悪魔に近寄り、槍で刺す。悪魔はぐったりとして羽根を落とした。俺は槍を引き抜くと悪魔を地面へ蹴り落とした。その反作用で滞空時間を延ばし、生き残っている最後の悪魔を視界に納めた。空中で落下する最中で動けない俺めがけ、悪魔が突っ込んでくる。俺は槍を投げる。悪魔に命中し、下へ落ちていく。俺も地面へと向かって行った。先に倒した悪魔の死体の上に着地し、死体を踏み潰す。もう、何も感じなかった。目の前に、彼女が立っていた。すごく悲しそうな表情をしていたような気がするが、俺は気づかなかった。

 結局、俺は悪魔と戦う事になり、彼女の家に引っ越した。部屋が何個か余っていて、どうせ使わないから引っ越して来いと言われたのだ。今彼女は朝食を作っている。彼女は料理が上手い。悪魔と戦うことはつらくなかったが、ただ一つ困ったことは、悪魔と戦った日の夜には決まって、彼女は彼と共に彼の部屋で眠り、翌朝は全裸でリビングに現れること。気にしないようにはしているが、やはり気にならないわけがない。彼女も彼も良い人で、楽しかった。それで俺も少しづつだが姉を失ったことによる憂鬱状態から立ち直ることができ、今日は姉の死以来はじめて学校に行く事にした。

 人とすれ違うたびに、悪魔に変わりやしないかと不安に思ったが、あの時一気に四匹も出てきたのが異常だっただけで、悪魔である人間はごく少数だった。俺が普通に街を歩いても、二週間に一度出会うか出会わないか、程度のものだ。もし悪魔でも、俺の指輪に気が付かなければ悪魔になる事はないらしかった。無事に放課後になり、家に帰る。校門を出ようとした辺りで、何部かは分からないけど、ランニングをしている女子とすれ違った。その女子は、俺の指輪を見て驚きと絶望、憎しみが混じった表情をした。その表情は、悪魔が見せるものだ。気が付くと、俺の周りで下校中だった生徒が、ほぼ全員俺を見ていた。もちろん顔見知りのクラスメイトも含まれる。全員が同時に悪魔としての姿を見せた。俺は顔見知りもいたので躊躇し、爪を腹に、腕に、顔に背に足に受けてしまった。血が指輪に触れる。光の中で俺は傷を回復し、左手首の腕時計を外して、右手に握り槍を作った。悪魔は滅ぼされねばならない。だが、友達まで殺すのか。俺の葛藤を知ってか知らずにか、悪魔たちが飛びかかってきた。防御しなくては死んでしまうが、俺は槍しか持っていない。防具などない。この槍は、傷つけた悪魔を必ず殺す、必殺の槍だ。牽制も、出来ない。俺は槍を薙いだ。しかし、なぎ倒された悪魔は羽根を落として死んでしまう。やはり、手加減など出来ない。向こうが死なないほどに手加減すれば、俺が死んでしまう。敵は二十匹ほど。良いさ、全員まとめてぶっ殺してやる。俺は槍を振りながら悪魔たちに突っ込む。三匹ほど巻き込み、殺す。襲い掛かる悪魔たちを切り、突き、払い、叩き、殺す。前方から飛んできた奴の羽根を切り落とし、後方から来たものの頭蓋を柄の先で割り、右手から来たものに袈裟切り、左手から飛びかかってきたやつの喉を裂く。辺りに広がる地の海に、死体の島が浮いていた。三十分ほど戦って、決着が付く。俺は勝った。しかし、

 周りのこの状態は何だ。さっきまでランニングをしていた女子、雑談しながら駅へと急いでいた数人組の男子、今日やる音楽番組のゲストの話をしていた女子達、黒板が写せなかったと嘆いていた友達にノートを貸してやるといっていた人のよさそうな男子、朝俺が久しぶりに学校に来たことを喜んでくれたクラスメイト、明日は雨になるかもしれないと言って天気予報では晴れだって言ってたぞと突っ込まれていた男子、チョコレートと言えば駅前に美味しい店があるよねと情報交換していた女子の集団、昼休みにエシュロンの話をしたクラスメイト、そんな普通の人達の死体が、転がっていた。この状況は何だ。俺は、俺が死にたくないからと言って、こんなことをして良かったのか。悪魔だから、人を殺すかもしれないからって、殺しても良かったのか。俺の友達だっていた。殺して良かったのか。俺がいなければ、もしかしたらみんなは普通の生活を送り続けられたんじゃないか。俺は血で濡れたアスファルトにひざを突いた。そして泣いた。死のうと思った。もう、何もしたくない。俺が倒れこんで手を着いた場所に、誰かの腕が転がっていた。ごめん、俺、死ぬから。 何してんの、あんた。と声をかけられて、俺は振り返った。彼女が立っていた。俺は死ぬんだ、と答えた。

 馬鹿じゃないの、今まであんなに悪魔を殺してきたくせにさ、今んなってそんなこと言いはじめるなんて、と彼女が激昂して言った。何も言わずに俺を家まで連れかえった彼女は、かなり怒っていた。そんなこと言ったって、俺の友達だったんだ、と、声を荒げて言い返す。友達。友達だから。友達だけに悲しむの。あんたは。 悪いかよ。俺は友達を殺しちまったんだぞ。俺は死ぬしかないような最低の人間だ。 むかつくわね。死ぬなら勝手に死ねばいいじゃない。どうせあんたが死んでも悲しむ人なんかいないんでしょ。さっさと死ねば。 むかつくってのはこっちのセリフだ、お前だって今まで何人殺してきやがった。なあ、あの銃で何人殺したって聞いてんだよ。答えろ人殺し。 お前なんかに教えてどうすんのよ、心の狭いガキのくせして。愛しのお姉ちゃんを追っかけて死ねばいいじゃないの。と、俺の方に近寄ってきた。俺は立ち上がり後ずさりながら、今まで座っていた椅子を掴んで、彼女に叩きつけた。お前も死ねよ。彼女は椅子を避ける。椅子が床に落ち、脚が一本折れる。彼女はすごく悲しそうな顔をして、泣き出した。顔がゆがみ、嗚咽を漏らしながら、見る見る目に涙が溜まり、あふれだす。俺は立ちすくんだ。彼女はリビングを出て行き、彼の部屋に入って行った。

 俺は何をする気にもなれず、椅子に座り、ただ天井の電灯を見続けた。三時間ほど経っただろうか、彼が、いつの間にか俺のとなりに立っていた。そして、こう言った。彼女は、友達だからと言って悲しむなって言ったんじゃないよ。友達だけに悲しむな、もしそれが見知らぬ人でも、その人のために悲しみなさい、と言いたかったんだ。俺はまだよく意味が分からなかった。彼女はね、ものすごく悲しみすぎて、壊れそうなんだよ。悪魔を殺した日の夜は、僕の所で寝るだろう。彼女、誰かに手をつないでもらわないと、眠れなくなるんだ。分かるかな。悪魔と戦うのは、悲しいことだよ。でも、慣れちゃいけないんだ。君みたいに、知らない人だからって、悪魔だからって、何も感じずに殺してしまうのは、だめなんだ。悲しんで、悲しんで、悲しんで、悲しんで生きていかなきゃいけないんだ。生きていかなきゃ、だめだよ。悪魔に殺された人達の思いのためにね。彼女が使う銃は、殺された彼女の友達の部屋で、彼女が見つけたものだ。彼女の友達は、死んでしまった今、少しでも悪魔の犠牲者を減らしたいと思っている。その想いが生んだのが、あの銃だ。君のお姉さんの指輪も、多分、君を悪魔から守りたい、という想いで出来てるんじゃないかな。だから、死ぬな。死んではだめだ。悲しみを背負って、背負いきれなくても、背負い続けて生きるしかないんだよ。立てよ、君が死んだら、僕だって、彼女だって悲しむ。彼女に、これ以上悲しみを背負わせる気か。みんなで悲しみを背負い続けて、でも、最後にはきれいに笑いたいじゃないか。死んだ君のお姉さんも、彼女の友達も、今まで殺してきた、そしてこれからも殺してしまう悪魔に憑かれた人間達も、一緒に、みんな一緒に、最期にはきれいに笑い合いたいじゃないか。



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